ガラスびんフォーラム | 50年記念若手座談会〜 ガラスびんの今、未来、夢… 〜 前編

● 50年記念若手座談会 〜 ガラスびんの今、未来、夢… 〜 前編

 私たちの暮らしになくてはならないガラスびん。一方で、他素材との競争や人口減によるマーケットの縮小など、厳しい現実に直面しています。そんな現状に対して、ガラスびん業界で働く若手社員は何を思い、どんな未来を夢みているのでしょうか。このコーナーでは、会員各社の若手社員にお集まりいただき、ガラスびんを取り巻く現状と今後の可能性、未来に描く夢などについて、ざっくばらんに語り合っていただきました。

 [出席者]
 佐々木達也((株)大久保製壜所営業部)
 山口すなほ(興亜硝子(株)グローバル営業本部商品開発グループ)
 菅昌 典子(大商硝子(株)営業部企画製作課係長)
 黒田 雅也(日本精工硝子(株)製造部主任)
 岡田 未羽(日本精工硝子(株)化成品事業部)
 野口  一(㈱野崎硝子製作所設備グループ課長)
 石川 英和(柏洋硝子(株)製造部検査課課長)
 古川 博英(柏洋硝子(株)営業部係長)
 大川  晋((株)山村製壜所統括管理部)
 [司会進行]
 玉井 利之((株)創言社)

 若い世代にガラスびんを身近に感じてもらう必要がある 

司会 まずはじめに、皆さんが持っているガラスびんのイメージを教えてください。

山口 ガラスびんの魅力は、食品を食べたときに美味しく感じることと、容器からの溶出がなく安全性が高いことです。また、リユースすることができるので、環境にも優しいという特徴もあります。さらに、化粧品や香水などの高級品に使われていることからもわかるように、ガラスには商品の価値を上げる効果があります。それにもかかわらず、最近はプラスチック容器に入った商品が増えています。見た目はガラスと判別がつかないほどプラスチックのレベルも上がっており、コストが高いにもかかわらず、需要が伸びています。こうしたことからも、今後はいかにプラスチック容器と差別化を図るかがポイントになると思います。

菅昌 確かにガラスは高級感や環境面でメリットがありますが、プラスチックの使いやすさと比べるとマイナスイメージがあります。営業からフィードバックされたお客様の声には、「ガラスびんは割れる、重い」という意見があり、肉厚感などを出すことができるようになったプラスチックを選ばれる方が多いのが現状です。弊社でつくっている「砡」という商品は、デザインが映え、インテリアとして飾っても見栄えがし、使用後はリユースもできるなど、さまざまな魅力を持っています。展示会などを通して、多くの方にプラスチックにはない魅力を伝えていければと考えています。

岡田 私は前職で化粧品販売に従事していました。そのときお客様から、「プラスチックの方が軽くて持ち帰りやすい」といったお声をいただいていました。しかし、ガラスびん業界に入って、重いからこそ漂う高級感と、中身がきれいに見えるガラスびんの良さを実感しています。

古川 その重量感で苦い思い出があります(笑)。現在、食料品等は原料の値上がりが著しいため、中身を減らすと同時に容器を重くしようとするバイヤーさんがいます。しかし、重量を増やすとコストが上がることを伝えると、「それは困る」と難色を示されます。そもそも、容器を重くすることが消費者にとってメリットがあるのかどうかも、微妙です。消費者庁が5年ごとに実施しているアンケートでは、「食品を買うときに何を見ているか」という質問に、「値段と内容量」と回答する方が増えています。ですから、びんを重くしても内容量が減っていれば手に取らないでしょうし、むしろマイナスになると思います。私は営業なのでお客様と直接お話しする機会が多いのですが、ガラスびんを積極的に使っているというよりは消極的な選択が多い印象を受けます。「本当はクリーンルームがあればプラスチックに変えたい」など、グサッとくることを言われることもあり、ガラスびんである必然性を考えさせられる毎日です。

司会 最近は、高くても良いものが欲しいという方が増えていますが、高価格帯の商品にガラスびんが使われることはないのでしょうか。

古川 確かにその傾向はありますが、世代によって求められるものが違うので一概には言えません。お中元やお歳暮を贈る習慣のあるシニア層はガラスびんの高級感を重視しますが、20〜30代は経済性と簡便性を一番に考える傾向にあります。お中元やお歳暮の習慣が乏しい上、ガラスびんにあまり触れたことのない若い世代がシニア層になったとき、ガラスびんの需要がさらに低下するのではと危機感を持っています。この若い世代に対し、いかに訴求性のあるものを打ち出していくかが今後の課題だと思います。

佐々木 私も若い世代はガラスびんに対して抵抗感があると感じています。ガラス市に参加したとき、会場は多くの来場者で賑わいを見せていたのですが、そのほとんどはシニア層でした。若年層の需要が低いことを目の当たりにする一方で、シニア層の高級志向は根強いと実感しました。

司会 製造側から見たガラスびんのイメージはいかがですか?

黒田 以前、私はプラスチック製品の設計と成形金型の設計をしていました。その頃はガラスもプラスチックと同じ方法でつくっていると思っていましたが、実際にガラスびんの製造工程を見て、特殊な設備や方法でつくっていることに驚きました。弊社ではしばしば肉厚の重量びんを製造しているのですが、つくりにくい上、原料代が高く、生産性も低下します。その上、普通のびんでは出ないような欠点も出ます。そのため、重量びんは生産効率の高い軽量びんと勝負することはできず、他にはない形のびんをつくることで差別化を図っていかなければならないと思っています。一方、金型を設計する中で、ガラスびんの良さも感じています。それは、ガラスびんの金型はプラスチックの半分ほどの納期でお客様にご提供できることです。またプラスチックと比較して、値段的に手頃な点もガラスびんの良いところですね。

石川 黒田さんからお話があったように、今はスタンダードな形状のびんよりもデザイン性や利便性に特化したびんが求められています。私の役割は、そのような変形びんの欠点をしっかりと検出するとともに、効率の良い梱包方法を考えることです。特に梱包に関しては、繊細なガラスびんを扱うため、傷つけたり、欠けたりしないように細心の注意が必要になります。作業員からすれば、悲鳴を上げたくなるような梱包が難しい形状のびんもあると思いますが、求められるものには挑戦していかなければいけません。

野口 私は設備担当なので詳しい知識はありませんが、ガラスびんはつくるのが難しく、同じ条件でも少しの変化で失敗してしまいます。その難しさを知っているので、ガラスに特別なものを感じるのかもしれませんが、ガラスは紙コップやペットボトルよりも高級感があり、同じ中身でも味が違うように感じます。また、味が変わらないので長期保存する調味料などはガラスびんが最適です。

大川 入社前は、ガラスびんの重さや、使い終わったキャップ付き調味料の面倒な分別処理にデメリットを感じることがありました。でも、今ではプラスチックより鮮やかな色が出ること、そしてさまざまな形に成形できることがメリットだと感じています。また、幼少期に飲んだコーラのびんが今でも記憶に残っているように、重量感や飲み口の触感が思い出として残りやすいのもガラスびんの特徴だと思います。

野口 幼少期からガラスが身近にあったシニア層は、重さや割れる性質を理解し、扱い方も注意深くなります。しかし、触れる機会がないと使い方が雑になり、割れてけがをする危険性につながります。そういった意味でも、小さい頃からガラスに接することは大切ですね。

 容器としての価値からデザイン重視へ 

司会 ご家族や知人など、皆さんの身近な方のガラスびんに対するイメージはいかがですか?

古川 私がガラスびんメーカーに勤めているので、家族は気を遣って「まぁ、いいよね」と言ってくれます(笑)。しかし、使用後に調味料を入れるのにちょうどいいというくらいで、ガラスびんだから買うことはないようです。現在、弊社はガラスのデザインを大学と共同研究しているのですが、学生たちもガラスびんが自宅にないと話していました。

岡田 私の場合は、友人にガラスを勧めても、結局使いやすいプラスチックの方がいいという話になってしまいます。今後、ますますプラスチックの需要が増え、消費者がガラスびんに触れる機会は減り続けていくと思います。そこで弊社では、ガラスびんブームを起こしたいという思いから、ガラスと触れ合う場を増やすため、大阪市内にギャラリーを設ける計画を立てています。そこで、ディスプレイなどを通してガラスの美しさや高級感、いろいろな使用方法をご提案していきたいと考えています。

菅昌 私の両親が若い頃は、飲み物や化粧品などのほとんどがガラスびんに入っていたそうです。ビール好きの父は、よく酒屋さんからびんビールを運んでもらい、空になったら返していたと話していました。昔はそういったガラスびんの循環システムが確立していて、今よりも使いやすい環境だったようです。現在は、残念ながら容器としてガラスびんを販売している店は減っています。しかし、ときどき雑貨屋でアンティーク系のガラス容器を目にすると、アクセサリー入れなどさまざまな用途を想像し、つい手に取ってしまいます。もしかしたら、いろいろな種類のガラスびんを置いている店があれば、多くの方の目に止まるかもしれません。

大川 弊社でも、ガラスびん自体が減っているという声があります。しかしその一方で、芸能人が火付け役になり、ガラス容器のメイソンジャーがブームになりました。若い世代にガラスびんを広めるためには、こうした海外から発信される流行もいち早く感知し、商品づくりにつなげることが重要だと思います。

佐々木 わが家にある数少ないガラスびんの中で、妻が面白い形状のものを持っていました。キノコの傘の形をしたキャップをシンプルな形のびんに合わせるとキノコに見えるというものです。元はチョコレートが入っていたらしく、びんの製造会社を調べたところ、イタリアのものだと判明しました。妻は、中身よりもオシャレな見た目に惹かれて買ったようで、びん自体に容器としての価値がなくても、デザインによって付加価値が生まれることにガラスの奥深さを感じました。

黒田 弊社では、ガラスびんの需要を少しでも上げたいという社長の発案で、社員に対してガラスびんの購入費用を出したことがあります。せっかくなので妻が欲しがっている化粧品を買いに行ったのですが、手に取る商品はどれもプラスチック容器ばかりでした。しかし、物色しているうちにある商品に目を見張りました。というのも、その容器がプラスチックかガラスかわからないほどの質感だったからです。私はメーカーの人間なのでガラスびんだとわかったのですが、普通の人には見分けがつかないと思います。とりわけ、男性の場合は飲酒の習慣がなければ、ほぼガラスびんに触れる機会がないので絶対に見分けがつかないでしょう。このままではガラスびんの必要性が危ぶまれる、そんな危機感を持ったのを覚えています。弊社の社長は、ガラスびんの容器としての需要が減少しつつある中で、次のステージは、ディスプレイなど容器以外の用途で楽しむことだと考えています。弊社は変形びんが得意なので、そういった需要を掘り起こしていきたいと思っています。

山口 確かに今はプラスチックも肉厚になり、重さもガラスびんと変わらなくなってきています。ガラスを目標にしてプラスチックの技術が進歩してきたので、外観的に酷似してきたのだと思います。どちらを選ぶかは、輸送するときに割れにくいことや中身などを考慮してお客様の判断にゆだねるしかありません。興亜硝子はヨーロッパを中心にグローバルな事業を展開していますが、担当者に聞くと、ヨーロッパでガラスはまだ揺るぎない存在であるそうです。化粧品市場を見れば一目瞭然で、日本では6〜7割がスキンケア商品、残りがメイクアップ商品なのに対し、ヨーロッパではフレグランス商品が50%を占めています。そのパッケージの大半にガラスが使用されており、香りをプラスする文化が根付いているヨーロッパでは、ガラスの重要性が高いようです。

野口 私も聞いた話なのですが、欧米ではペットボトルや飲料缶、お弁当の容器や肉・魚のトレー等も規制していると言います。先日、製薬さんとお話しした中で、ドリンクびんをヨーロッパへ輸出する際にはプラパレは禁止で、木パレでなければ門前払いとなるそうです。もっとガラス業界として、ガラスびんの優先使用を国や自治体に働きかけることが必要だと思います。

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